2012年4月20日金曜日

上肢外傷とは|慶應義塾大学病院 KOMPAS


じょうしがいしょうとは

概要

上肢は交通事故や労働災害、スポーツ外傷などで損傷されることが多く、骨粗鬆症を有する方では、ちょっとした転倒で骨折することも稀ではありません。ひとたび上肢が損傷されると、芸術やスポーツ活動だけでなく、書字や食事、着替えなどの日常生活動作にも多大な影響を及ぼします。外傷は多種多様であり、すべてを解説することは困難ですが、ここではまず外傷の種類や定義などについて解説します。

A.外傷の種類、分類

外傷には骨、軟骨、関節にダメージが加わるものと、皮膚や皮下組織、筋肉、腱、神経、血管、靱帯などにダメージが加わる軟部組織損傷があります。ときには両方とも損傷を受けることもあります。
刃物やガラス片、くぎなどによる鋭的外傷は、筋肉や腱、神経、血管、骨、関節に損傷が及べば、それぞれに対する治療が必要です。また外傷後、細菌などに感染することがあり、特に損傷が骨や関節に及ぶ場合は汚染組織の切除や洗浄といった初期治療が重要となります。打撲や捻ったことなどによるものを鈍的外傷といいます。鈍的外傷は、単純な打撲から広範な軟部組織損傷を伴うものまで、多種多様です。


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B.軟部組織損傷

筋肉や腱が完全に断裂すれば、その筋肉、腱が司っている関節の動きができなくなります。残存する筋肉、腱が機能を代償してくれる場合もありますが、鋭的外傷では断裂部を縫合することが基本となります。神経損傷があると、手指の知覚が失われたり、動かせなくなったりします。断裂した神経を縫合すれば、ある程度の回復が期待できますが、残念ながら正常な知覚に戻るわけではありません。損傷神経の断端が疼痛の原因となることがあり、有痛性神経腫といいます。主要な血管損傷がある場合は緊急処置が必要です。機能障害が残存する場合は、残存する筋肉や腱、神経の機能を移し替える移行術や、体の別の部位から持ってくる移植術をおこない、機能を再建することがあります。


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C.骨・関節の損傷

本来動く範囲を超えて関節が強制的に動かされた場合、関節包や靱帯の一部が損傷されることがあります。これを捻挫といい、広い意味では靱帯損傷を含みます。小さな裂離骨折(いわゆる剥離骨折)を伴うこともあります。高度な靱帯損傷では関節の安定性が損なわれることがあります。関節の安定性が損なわれて、関節面が接触していない状態になったものを脱臼、一部が接触しているものを亜脱臼といいます。関節の安定性が損なわれた状態で放置すると、通常より早く関節軟骨が変性して、疼痛や動きが悪くなる変形性関節症へと進展することがあります。


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骨折とは、骨の連続性が断たれることをいいます。連続性が完全に失われたものを完全骨折といい、骨全体としては連続性が保たれているけれど、骨梁という骨内の柱状構造の連続性が損なわれたものを不完全骨折といいます。いわゆる"ひび"と呼ばれる亀裂骨折や小児期に発生する若木骨折、急性塑性変形なども不完全骨折のひとつです。中には怪我をした直後のレントゲン写真では骨折が分からない場合もあります。これを不顕性骨折といいます。CTやMRIなどの特殊検査をおこなったり、1カ月くらい経過してから再度レントゲン写真を撮ったりすることで診断します。皮膚に傷があり、骨折部が体外と交通しているものを開放骨折あるいは複雑骨折といいます。開放骨折は感染の危険性が高く、また骨以外の組織の損傷も高度なため 、治療に難渋することがあります。関節面に骨折線がかかるものを関節内骨折、かからないものを関節外骨折といいます。関節外骨折ではある程度の転位、あるいは"ずれ"、は許容されますが、関節内骨折では関節面がずれて癒合すると痛みが残ったり動きが悪くなったりする原因となります。


骨折治療の原則はギブス等での固定(外固定)ですが、骨折部が粉砕していたり、骨折の安定が得られない場合、あるいは早期社会復帰を希望される場合には、手術をおこないます。手術をおこなっても、骨癒合を早くできるわけではありませんが、元来の形状に近い形で、骨折部を金属で固定しますので、より早期に外固定を外すことができます。骨折の形状や部位によって種々の特徴があります。例えば、舟状骨骨折は骨癒合しにくい、高齢者橈骨遠位端骨折や小児上腕骨顆上骨折は変形しやすいなどです。骨癒合しないことを偽関節、変形して骨が癒合することを変形癒合といいますが、主要部位の偽関節や度を過ぎた変形癒合は手術を要することがあります。


D.複合性局所疼痛症候群complex regional pain syndrome(CRPS)

最後にCRPSについて解説します。CRPSとは複合性局所疼痛症候群complex regional pain syndromeの略で、骨折、捻挫などをきっかけにして、慢性的な痛みと腫れが持続し、その結果、運動制限を引き起こす病態です。手術を契機にして発症することもあります。以前は反射性交感神経性ジストロフィー、reflex sympathetic dystrophy (RSD)とも呼ばれていました。神経損傷を伴う場合もありますが、単純な打撲でも生じることがあり、原因となる刺激とは不釣り合いな痛みが続き、通常では痛みを起こさないような刺激でも疼痛が生じることもあります。CRPSは、いまだその発生機序が解明されておらず、器質的、機能的要因だけでなく、心因的要素の関与も示唆されています。症例により、また病期により、痛みの発生機序や効果のある治療も異なり、治療体系が確立していないのが現状です。発症し、慢性化した場合には、整形外科のみでの治療は限界があり、麻酔科による神経ブロック療法、精神神経科による薬物療法なども試みます。

文責:整形外科学
記事作成日:2009年2月1日
最終更新日:2011年12月28日

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