2012年4月10日火曜日

ヒューマンエラーはなぜ起こる


ヒューマンエラーはなぜ起こる

ヒューマンエラーは、なぜ起こる?どう防ぐ?

産業技術総合研究所 デジタルヒューマン研究センター研究員
中田 亨 toru-nakat/p>

2010年3月31日更新 (2005年5月27日書き始め)

(twitterでつぶやく)



ヒューマンエラーとは、人間の過誤(ミス)のことです。人為ミスとも呼ばれます。不本意な結果を生み出す行為や、不本意な結果を防ぐことに失敗することです。 特に、安全工学や人間工学では、事故原因となる作業員やユーザの過失を指します。

下手や無駄だけど事故にならない操作や、機械設計者の設計ミス(=操作者以外の人的過誤)は、普通はヒューマンエラーには含めません。

現代の大事故は、ほとんどヒューマンエラーによる事故です。いろいろな統計報告がありますが、事故のおおよそ6〜8割はヒューマンエラーが原因であるというのが相場になっています。

ここでヒューマンエラーのリスクについて考えて見ましょう。リスクとは被害額期待値(=予想平均被害額値)の意味と考えてください。(人命にかかわるヒューマンエラーの事故も多いですが、さしあたり金銭の例題にします。)

1株を61万円で売るという指示を、61万株を1円で売るという指示にまちがえてしまったとします。「br/>解答例: わかりにくい要因をあげる。
1) 複数の事柄を一度に言う。保存と録音に何の関係があるのか。しかも矛盾している。文書は保存されデータは失われた、とは。
2) ユーザにとって身に覚えが無い。音声認識も、マイクの使用もしていないのに、この警告はでる。
3) 設計者が定義した用語で説明している。「データ」、「ディスク」、「記憶域」とは何のこと?
4) 強制なのか推奨なのか意思確認なのか不明。「必ず」と言うわりに「確認」でいいのか。
5) 「押せば直る」ボタンがなく、解決策も示していない。どの設定変更を行えばよいのか指示がない。OKボタンだけ。

  • とあるエラーへの対策に資金を割くべきと考えているが、上長の同意を得られない。どうすべきか?
    解答例: 条件提示する。対策の一部だけやるなど。相手が関心を持ちそうなメリットを語る。
    こうした折衝は難しい。もっと詳細に論じられているのが、ワインバーグ「コンサルタントの秘密 —技術アドバイスの人間学」共立出版。ただしこの本は身体障害に関する差別的表現が多いので注意が必要。

  • とあるエラーへの対策を行うべきと考えているが、うまい解決策がわからない。また、自分の職掌範囲ではない。関係部署に連絡して、解決策を考えるように頼んでも、特に進展していないようである。どうすべきか?
    解答例: 自分で考えるしかない。下手でも気にしない。わが身のこととして望めば、長考に耐えられる。 自分で考え始めた時点で、自分はその問題の第一人者になったと思うこと。走っているのが自分だけなら、トップランナーであるし、嫌でもそうならざるを得ない。結局、技術は必要に迫られた人でないと、取り扱えないものである。
    他人に考えることを頼むことはほとんど成功しない。 連絡は絶やさず、条件提示を微妙に変化させながら交渉をつづけ、形骸化しないようにする。完全な対策がある方より、組織内で会話がある方が何につけ健全である。

  • 豆知識クイズ。"Safety First"「 安全第一」を言い出したのは誰でしょう。なぜでしょう。
    解答例: US Steel 社のスローガンである。もともとは、防災という倫理的な目的で導入された。実施してみると、生産性向上に寄与することが判明。裏を返せば、エラーや事故は経営を強く圧迫するといえる。
  • 【エラーの伝説化】 エラーや事故は、人々の関心を呼び、発生すると詳細に記録される傾向がある。なぜだろうか?
     製図用コンパスのことをぶんまわし(分廻)と言うが、この語は「源平盛衰記」で鳥の絵の切り抜き失敗談の中に出てくる。 誤植にも「姦淫聖書」という伝説的な誤植がある。筆名の山本周五郎もエラーが起源。最近では、「みのがしてくれよコーナー」というのもある。
    解答例:
     事故によって、部外者にはうかがい知れない内部の実態が暴露される。事故を起こした者は、内情を説明する責任を負う。説明を完結させる必要があり、不都合な情報を隠蔽することが難しい。
     事件や事故は記録や記憶に残りやすい。
     「まちがい」と見なされてきた現象が、いざ出現してみると、有効利用され、発明の契機になることも多い。
  • 【徒然草】 徒然草で、ヒューマンエラーに関係する箇所を挙げよ。
    解答例:
      百九段:高名の木登り。木から下りようとする人を、木登りの名人が監督していた。高くて危ないところでは何も言わず、低い所になってから注意せよと声をかけた。緊張のレベルが高いところでは何も言わなくても自分で気をつける。緊張のレベルが下がる局面で油断が生じ怪我をしやすい。緊張レベルの適正化は、現代のヒューマンエラー学でも重要事項とされている。
    百十段:双六(バックギャモン)の名人。勝とうとするな。負けじと打て。劣勢であっても、どの手が一番速く負けにつながるかを考えて、その手を使わず、少しでも負けが遅くなる手を選ぶ。この考え方は数学でミニマックス戦略と呼ばれるものであり、現代的である。Fault Tree Analysis に通じるものがある。事故の渦中では、勝ちを探すのではなく、「負けじ」と行動するのがよい。
    百二十七段:改めて益なき事は改めぬをよしとするなり。同じ意味のことわざに、「壊れてなければ手を出すな」(ワインバーグの言う、エンジニアリングの第1原則)。うまくいっている事柄に、なんとなくヒューマンエラー防止策を導入するのは危険。
    百八十五段:馬乗り名人、安達泰盛はとても慎重である。素人は慎重さに欠ける。
    百八十六段:吉田と申す馬乗り。馬乗りの秘訣。
    馬の力には人間はかなわないことを知れ。
    乗ろうとする馬の長所短所を見極めろ。
    馬具を検査せよ。
    不審な点があれば乗ってはいけない。
    作業員教育の要点が、言い尽くされている。
    百八十七段:まとめ。名人は慎重である。慎重な方が得である。
    二百二十九段:よき細工は少し鈍き刀を使ふと言ふ。(短い段なので真意はわからないが、便利な道具や強力な道具は、むしろ作業には向かないことがある、ということか。失敗した時に被害が大きいから。とはいえ、切れ味の鈍い刃物はむしろ危険である。切り込むために大きな力が必要になったり、予想のつかない動きをしたり、刃が折れたりする。)

  • 機械に不本意が判るか?

    何が"不本意"になるのかは、意味的で恣意的に決められます。作る機械あれば、壊す機械あり。ユーザの都合に応じて"本意"は変動します。コンピュータのファイルを完全に消すべきか、否か。そんなことを、理論できっちり断言できないはずです。

    ちょうどこれは、フィリップ・K・ディック著『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』に出てくるVoight-Kampff Empathy Test (フォークト・カンプフ検査法)の問題に似ています。

    人間:「このカバンは官給品なんだ」
    機械:「そうですか」
    人間:「いい皮だろう」
    機械:「へえ」
    人間:「赤ん坊の皮なんだ」
    機械:「そうですか」

    機械は異常に気付いていません。でも、この意味と恣意性が分かるようになれば、機械は立派なパートナーとなって、人間がミスしてみ指摘してくれるようになるでしょう。

    例えば、メールの送りまちがいはどうでしょう。メールの宛先・内容(頻出単語)・サイズを確認し、普段とは違うなら、「変ですよ」といってもらいたいものです。(現在、迷惑メールの判定はかなり成功しています。なら、自分のメールの検査もできるのではないでしょうか。)

    本人にとって"不本意"とは何か?

    人間は「しまった」と思うと、脳の前頭葉のある部分にある脳波が出ると言われています。これを Error-Related Negative (ERN)と呼びます。とはいえ、実験室で雑音や妨害になる出来事を排除してようやく測れる脳波です。ERNを使って何か実際の現場での分析に・・・とは、まだいかないようです。

    では、精神の方から考えるのはどうなるでしょうか。なんだか哲学的になってしまいましたが、実際に哲学で、フッサールやハイデガーがこれを論じているらしいのですが、ワカリニククテてわかりません。

    しかし「必要は発明の母」でして、エラーやら仕様設計ミスに苦しめられてきたソフトウエア業界では、立派な実用書が既に出ているので、こちらをお読み下さい。
    ドナルド・ゴース、ジェラルド・M・ワインバーグ著「ライト、ついてますか  問題発見の人間学」、共立出版。
    要点は、「問題が存在していることと、問題がどう見えるかと、問題をどう解くべきかを、分けて整理して考えよう」ということです。

    漢の劉向が編纂した『説苑』に、次のような4分類があります。
    従命利君、為之順。
    主人の命令に従って、主人に利益を与えることを、順という。
    従命病君、為之諛。
    主人の命令に従って、主人に害を与えることを、諛という。
    逆命利君、謂之忠。
    主人の命令に逆らって、主人に利益を与えることを、忠という。
    逆命病君、謂之乱。
    主人の命令に逆らって、主人に害を与えることを、乱という。

    Issac Asimovのロボット三原則(1942)を、この4分類で翻訳するとこうなります。

    1. ロボットは乱ではならない。また諛でもならない。
    2. ロボットは基本的に順であるべき。ただし時として忠であるべき。
    3. 1条と2条に反しない限り、ロボットは自分を守るべき。

    現実の機械で考えると、

    • 機械は基本的には、順になるように設計されている。
    • 順は状況によっては、諛となる。これは設計想定外とも言えるし、設計想定過狭ともとられる。
    • 安全装置などの工夫で、機械は諛をぬけだして、忠になる。
    • 機械が逆命する理由をユーザが理解できない場合は、忠は乱になる。例:中華航空機名古屋空港事故(1994年)。
    使いやすい道具とは: 目的に対する機械のしくみが分かりやすい。制御が楽。
    「あれをするには、こうすれば、ああなって、できる」。
    「このボタンを1回押すだけでできる」
    安全な道具とは: 事故状態になりにくい。安全装置があるし、未然に気付いて引き返せる。
    安全装置の例: 空焚きできないお風呂。
    気付きやすいの例: アラーム。印刷プレビュー。文法チェック。
    引き返しの例: アンドゥ。バックアップファイル。ごみ箱ファイル。クーリングオフ。
    両立するの?
     本質的には相反しないはずなのに、使いやすさと安全性は相反する関係になることが多いです。暴発しにくいものの、何重もの安全装置を解除するのが手間である機械などというものが作られてしまいます。
     その原因は、「制御が楽」vs.「作業内容を観察し介入できる」の対立にあります。「ボタン1発」が作業内容の観察の機会を失わせているのです。
     一見相反する「使いやすさ」と「安全性」を、両立させるには工夫が必要です。

    本来考えるべきことは別にあります。なぜ事故のきっかけが大事故に発達したか。きっかけは別でも同様の事故は起こりえたか。きっかけは同じでも別の事故結果は起こりえたか。それを防ぐには、各々の職責レベルで、どのような態度を採るべきであったか。責任の所在や因果関係を固定的・限定的に考えない方が公平だと思います。きっかけはしょせん偶然の産物にすぎません。

    まとめると、工学者は次のことを果たすべきです。

    • 機械が事故に至る過程を想定し、安全措置の防災能力・減災能力を見積もる。
       
    • 見積もり方の方法論を、定量的・汎用的・平易なものに練り上げる。
       
    • 想定した事故過程を起こりにくく・広がりにくくする工夫を考える。
       
    • 事故過程の想定のために現場情報の収集システムを作る。
       
    • 製造者責任と管理者責任の標準となるような、安全への技術原則を定式化し発信する。(法規制ではないが、裁判での目安にはなる。)

    製造物責任を問われるようになった一因は、作業員〜行政の範囲の責任追及してもやっぱり限界があることに世間が気付いたからでしょう。

    安全工学の観点から言えば、責任追及より再発防止が人類みんなのため。社会的・経済的に言えば、事故が起これば全員敗者。この観点から安全コンサルタントを行う人材を、大学工学部がろくに育てていないことは大学の責任。

    機械の設計が引き起こすエラーを考えて見ましょう。

    デザイン誘発エラー:操作の仕方が直感にあわないことで引き起こされるエラー。見た目が紛らわしい。ボタンの配置、レバーの向きが変。

    ダメな設計。やっつけ仕事なGUI。

    • 「郵便番号と電話番号は半角・ハイフンなしで入力してください!」
    • 「住所は全て全角で入力してください!」

    このように、本質的でない事柄に細かく指定を出すのは、GUI製作者の手抜きである。ちょっとの手間で対処できるのに、手を抜かないと利益が出ないのでしょうか。
    WEBは会社の名刺・看板とも言えるが問題視されていない。かなり有名な企業でも、この程度の恥ずかしいGUIを放置し、問題があったらコールセンターの要員で尻拭いすることで満足していることがほとんどです。
    このようなサイトはサイバー攻撃に弱いと思われるでしょう。(Broken Windows Theory, 「割れ窓理論」)

    自動車のトランクルームの蓋のちょうつがいの腕。すこし昔の大衆車では、荷室の蓋をささえるアームがむき出しになっていました。このため、荷物の位置が悪いと、蓋を閉めるときにアームが挟まって、荷物が押しつぶされる事故が起こっていました。最近の設計ではアームはむき出しにしていません。

    大衆車といっても、ここにお金をかけてくれないと、使うたびにイライラします。
    「企業が売っていると思っているものを、客が買っていることは、稀である」(ピーター・ドラッカー)
    という名言がありますが、大衆車の安さを買う人はあまりいないと思います。安さなら、上級車の中古車でも充分求められます。

    新車の大衆車を買う人は、別の目的で買っています。新車ならではの安全性能、車体の妥当な大きさ、乗員数、燃費、保守費用、減価償却、盗難の少なさ、などを買っているでしょう。荷物がつぶされるのを、安いから仕方ないと納得する人は、むしろ稀でしょう。

    缶飲料の自動販売機の取り出し口: 照明なし。低い。狭い。痛い。衝撃。地味。防犯上の理由。改良版の問題点(速さ、厚さ、コスト)。

    「トラブルシューティング」ボタンを押すと、マニュアルが表示されるだけ。本来なら、直感的に分かるインタフェースで無ければならない。操作具にユーザ誘導能力が少なすぎる。カタカナ語や長熟語の撲滅をすべき。

    構造化エディタの亡霊。

    潜伏エラー:危険を機械が予告してくれず事故に突入するエラー。


    <図:状態遷移で事故のタイミングを考える>

    ヒューマンエラーの分析には、"状態遷移"の考え方を使うことが適当です。

    正常と事故との間には、次のような概念があります。


    妊娠の症状は何ですか?
    通常状態
    機械の使われ方として正しい範囲の状態。
    事故状態
    被害や損失などの不本意な結果が生じる状態。これになってはいけない。
    日和見状態
    通常状態でも事故状態でもない状態。
    不帰還圏
    一度入ると、そこから出ることができない状態の圏。蟻地獄。
    不帰還圏の核
    不帰還圏の中にはいって充分遷移を経過した後に陥る状態の圏。蟻地獄の底。
    事故圏
    事故状態が核になっている不帰還圏。ここに入ると事故が避けられない。
    臨界状態
    あと一歩で事故圏に突入する状態。事故回避の最後のチャンス。
    決別遷移
    事故圏に突入する状態遷移。これをやっちゃおしまい。
    警告付き遷移
    新たに進んだ状態が臨界状態であることがユーザに警告される遷移。
    無警告遷移
    到着先が臨界状態であることを警告してくれない遷移。危険である。"鯖のいきぐされ"。
    • 無警告遷移で臨界状態に到着できるシステム ⇒ ヒューマンエラーによる事故を生じる
       
    • 警告付き遷移で臨界状態に到着できるしすてむ ⇒ 注意深いユーザならヒューマンエラーを予防できる
    フールプルーフ(Fool-proof)
    誤操作しても事故状態にならない工夫。つまり、システムを改良し、臨界状態をなくすこと。安全装置など。
    自動車のキーの閉じ込み防止策はいろいろありますが、これらはフールプルーフ策です。
    フェイルセーフ (Fail-safe)
    部品が故障しても重大事故状態にならない工夫。つまり、システム、特に部品を改良し、無警告遷移をなくすこと。
    デパートのレストラン街が最上階にあるのは、火災による上方階への煙充満と延焼を未然に防ぐためのフェイルセイフ。
    事故の軽減化、結果管理
    事故が起きてからであっても、状況進展に介入して被害を最小にし、少しでもマシな結果にすること。
    同じ事故圏であっても、より被害の少ない事故の核へ状態を誘導すること。
    模範的操作遷移
    設計者が想定した機械の使い方の手順。通常状態の間の遷移になる。
    • 模範的操作遷移で臨界状態を通らないといけない ⇒ 危険なシステム。昔は安普請システムならしょうがないとされた。  
    • 模範的操作遷移ではないが、臨界状態にたどり着ける ⇒ 危険なシステム。設計者の想定が悪いのか、"ユーザのいたずらが事故原因"なのかは、議論の余地がある。  

    事故:「ホッチキスの玉の残りが無いのに、手元に替え玉がないこと」

    1. ホッチキスの替え玉がない場所で作業する。
       
    2. 玉の残りが1個以上:通常状態。まだまだホッチキスが使える。
       
    3. ホッチキスを握って玉を消費:無警告遷移。
       
    4. 玉の残りが0個:臨界状態。もうホッチキスは使えない。
       
    5. ホッチキスを握る:決別遷移。
       
    6. 紙をとめられないし、替え玉もない:事故状態。

    改良したホッチキス:予備弾倉があるもの。

    1. ホッチキスの替え玉がない場所で作業する。予備弾倉に予備玉を充填しておく。
       
    2. 玉の残りが1個以上:通常状態。まだまだホッチキスが使える。
       
    3. ホッチキスを握って玉を消費:無警告遷移。
       
    4. 玉の残りが0個:予備の玉があるので臨界状態ではない。
       
    5. ホッチキスを握る:手ごたえがないので警告付き遷移。
       
    6. 紙をとめられないと気付く。
       
    7. 予備弾倉から玉を補充。またホッチキスが使える。
       
    8. 作業場所から帰ってきたら、予備玉を充填。
       

    類例: 電球の並列化

    重要な電球: 照明や信号表示などの用途のもの。切れてはいけない。

    電球を2個用意する: 片方が切れても、一応の明るさは保たれる。比較的暗くなるので片方が切れたことに気付く。

    ダブルフィラメント: 電球を2個設置するスペースが無い場合は、一つの電球の中に2本のフィラメントを入れたものを使えばよい。

    ポップアウト効果を使って気付かせよう

    少しの違いしかないのに、人間の心理にとっては特に目立つことを、ポップアウト効果(Pop-out)といいます。

    エラーへの警告は、ポップアウト効果に沿った形で行うと、より確実になります。


    赤色・虎縞・アラーム音などの、ありきたりのポップアウトはほとほどに!

    本質安全
    そもそも事故モードがない(と見なしうる)もの。道路でいえば立体交差など。
    制御安全
    制御して維持している安全。遮断機踏み切り。
      非演算型制御安全
    情報処理しなくてよい安全装置。スプリンクラでは、80℃で溶けるアマルガムが栓(溶栓)になっている。温度センサがそれ自体でアクチュエータ(栓)になっている。
      情報演算型制御安全 (エネルギー消費型制御安全)
    センサ + 回路 + アクチュエータで安全を管理しているシステム。安全装置設計としては安易の発想。現実には危険なことが多い。停電、計測誤差、保守、アクチュエータの制御、コストなど、難点がある。
    安全への性能
    本質安全 > センサ・アクチュエータ一体型制御安全 > センサ・アクチュエータ分離型制御安全

    まずはつぎの問題をごらんください。

    【四枚カード問題】

    (原典: Wason, "Reasoning," In Fos (Ed.), New horizons in psychology, pp. 135-151, 1966.)

    ここにあるカードは、片面に数字、その逆面にアルファベットが書かれているとします。
    つぎのような規則があったとします。
    「カードの片面が母音のアルファベット(A, I, U, E, O)であるならば、その裏面には偶数が書かれてなければならない。」

    今、机の上に4枚のカードがあります。それぞれのカードには

    と書かれています。さて、規則が守られてるか確かめるには、どのカードをめくって裏面を確かめる必要があるでしょうか?(ヒント:めくるカードの枚数は2枚です。)

    【構造は同一だが具体的にした問題】

    未成人は飲酒をしてはいけません。この法律が守られていることを確かめるには、次の4人のうち、誰を検査すべきでしょうか?

    大抵の人は、次のように答えます。

    4枚カード問題のよくある答え: Eと4のカード
    具体的問題のよくある答え: 酔っている人と未成人

    具体的問題の方は、正解の自信があるのではないでしょうか。たしかにこんなに当たり前の問題なら、小学校低学年でもまちがえないと思います。

    ところで二つの問題は、論理学的には同一で、4つの選択肢の配列も同じなので、具体的問題の答えが正しいとすると、4枚カード問題の正解は、7(酔った人に相当)とE(未成年に相当)なのです。

    「4」のカードは、反対側面に何が書かれていてもいなくても規則違反にならないので検査の必要はありません。「7」のカードは、反対側面に母音が書かれていると規則違反になるので、検査すべきです。

    抽象的な4枚カード問題の場合、正解率は非常に低く10%程度とWasonは報告しています。ところが同じ人が、具体的問題ではまずまちがえません。

    このように、人間の直感的に頼った推論、直感論理学は、問題が具体的なら当たり前でまちがえようが無い一方で、問題が抽象的だとボロボロであるという特徴があります。

    人間の理解の段階 (マックス・ヴェーバー『社会学の根本概念』より)

    【1】 要素的理解: 問題文や登場するものごとの意味が、(個別的であるが)分かる(だけ)。

    【2】 説明的理解: ものごと同士の関係、問題が生じた文脈、動機、登場していないものとの関係などを、説明したり推測できる。頭の中にイメージが湧く。解答をまちがえにくい。(ノウハウ (know-how) を超えて"know-why"(ノウホワイ、ノウワイ)、つまり広く背景事情を知っていること。)

    人間に情報処理を課す場合、課題を具体的にして提示しないと、かなりの確率でまちがえると予想できます。

    また、人間の情報処理を「認知・判断・実行」などとモデルにしてみたところで、それは絵に描いた餅ではないか、と言う事になります。具体的にするとなぜ正解率が激増するのか、そもそも「具体的」とは何か、充分わかっておりません。人間の核心部分はブラックボックスのままなのです。

    事故原因の解明主義「どんな悪手にも理由がある」(林海峰)←→不条理主義「個々の事故は確率的現象であって理由は問えない。事故が起きやすい土壌が問題」

    操作者の目的の把握:ベルトコンベアー作業は効率が悪い? 預け払い機はなぜ金を最後に出すか。

    ベルトコンベアー作業 = 作業工程の一部しか見られない。前工程と後工程を想像しにくい。 ⇒ 達成感がない。注意すべき点が分からない ⇒ 空刑(無意味な作業を何度もやらせる精神的刑罰)になる。
    対策:意味を補強する。工程全体を説明する。達成を具体化する(こなした数だけ点をコインが溜まるなど)。孤独作業を避ける。

    システムの事故耐性のレベル。あなたにシステムはどこまで大丈夫?

    レベル 想定範囲 説明
    1 作った本人専用 訓練の仕方すら不明確
    2 スーパーマン専用 訓練を受けた人しか使わせない
    3 健康人 日本人成人男子の標準体型で日本語が分かる人しか使えない。
    4 身体機能低下 健康な成人なら使えるが・・・。子供の手が届かない。視力の弱い人には字が小さくて読めない。ユニバーサルデザイン。
    5 動物の想定外行動 ネズミ、ヘビの侵入。スズメバチ、アニサキス、ダニ。
    6 子供の想定外行動 たばこを飲み込んだ!(注:牛乳を飲ませてはダメ!!)
    7 悪環境 冬のシベリアでも大丈夫。停電しても大丈夫。騒音でも大丈夫。
    8 善意内部者の非正規使用 面倒くさいので安全装置は解除して使っていました。
    9 善意内部者の危険嗜好使用 安全運転に飽きて、ちょっとスリルを味わってみたくなった。
    10 悪意外部者の犯行 泥棒が侵入しても大丈夫
    11 パニックした個人の行動 あわてた人でも大丈夫
    12 パニックの群集行動 あわてた群集でも大丈夫
    13 悪意内部者の犯行 内輪の者がいやがらせで犯行でも大丈夫
    14 善意内部者の故障 機長が心臓発作でも大丈夫
    15 善意内部者の過誤 大統領が核のボタンをまちがえて押しても大丈夫
    16 天変地異 大地震でも、隕石が落ちてきても大丈夫。


    参考:原子炉の立地指針にて考慮する「想定事故」

    呼称 内容
    「重大事故」 徹底的に不運が重なった場合に起こりえる故障。部品の寿命が一斉に尽きるなど、運の悪さで到達できる事故。正常の設計・製造・運用であっても、確率的には極めて稀だが起こりえる。
    「仮想事故」 「重大事故」で、さらに安全装置が故障した場合に起こりえる事故。
    「過酷事故」 現実に起きてしまった深刻な事故。設計時の想定を超えている。必ずしも、未知の新現象が事故の原因とは限らず、ずさんな運用(人間の問題)が原因になっていることが多い。

    人間は、危険な行為をわざと行う傾向があります。若者の自動車の危険な運転がその代表と言われています。年齢が若いと、身体能力や習得能力は高いのですが、無謀さによって、事故が多いのです。

    なぜ、危険なことをわざわざするのでしょうか。

    【1: 遊びと危険の見積もり】 スリルを味わうことは、遊びやスポーツの、ひとつの典型になっています。ジェットコースターのようなものです。危険に接近したり、眩惑感を感じることが、快感につながると言っていいでしょう。

    事故の分析では、わざわざ危険に近づいた行動を Risk Taking Behavior と呼びます。Risk Taking Behaviorで事故になる例も、多いのです。

    危険に近づく人は、危険についての主観確率、つまり「これくらいは大丈夫だろう」という見込みを、頭の中で大雑把に計算しています。ゼロでは遊びにならず、100%では自殺行為。ごく小さいがゼロではない確率を推定しています。この見積もりが甘いから、事故を起こすとも考えられます。

    あなたはタクシーに乗ったとき、シートベルトを締めますか? 締めない場合、死に至る主観確率はいくらと見積もっていますか? 1000回に1回? 10000回に1回?

    【2: 闘争本能】「人はハンドルを持つと性格が変わる」としばしば言われます。危険もありえる状況になると、冷静な判断ができなくなり、上で述べた主観確率そっちのけで、とにかくスリルを味わえるまで乱暴に振舞うわけです。

    【3: 自己顕示欲】自己顕示欲による場合もあります。リスクを取りたいわけではないけれど、玄人っぽく、カッコヨクみせたいために、ちょっと危ないやり方をしたいわけです。例えば、文字が書かれていないのっぺらぼうキーボードをわざわざ使う人。何のことやら分からない用語・略語を使う人。「いつものアレ」と省略した(危ない)連絡を使いたがる人。「私は素人じゃない」ということを(他人や自分自身に)示すために、そんな行動をするわけです。

    怖い目にあうまでは、危険を克服する能力を自己規定(アイデンティティ)の中に組み入れたがる。

    徒然草の「吉田という馬乗り」には、「名人はむしろ臆病で安全第一主義」とあります。「玄人は無駄なリスクを取らない」ということを自覚させることが、事故予防の要点です。企業文化として教育するか、シミュレータなどで事故を体験させ、誤った自覚を矯正するべきでしょう。

    1. 「ご安心ください。絶対安全です」
    2. 「考えられる事故は○○で、その対策として○○してあるので安全です」(米軍戦車の内部表示)
    3. 「免許保持者は安全に使うことができます」
    4. 「統計によれば、事故率は○○%です。それでも使いますか?」
    5. 「これは研究用サンプルです。自己責任でお使いください。」
    6. 「これはおもちゃです。○○目的では使わないでください」
    「あいつは頭の後に目がある」と言われますが、むしろ目がない人の方が珍しいと言えます。

    人間の視覚は貧弱なものです。視野はそもそも狭いですし、はっきり見えて色も分かる視野範囲はかなり限られています。しかもわりと主要な箇所に盲点があり、その部分は見えていません。(見えているつもりになっているだけです。)また、薄暮になると視力はぐっと落ちます。

    要するに、「見なければならない所に注目する」からこそ目が使えているといえます。これを注意制御といいます。

    注目を制御するために、聴覚を使っています。聴覚は全方向に対してまんべんなく注意を払えます。音源の位置や、音質、内容について推定できます。視野の外で起こっていること、さらには視野の中で起こっていることに対して、どこを見るべきか、何が起こっていそうかが分かるのです。

    こう考えると、聴覚と視覚の連合によって、全方向に目を行き届かすことができるといえます。


    どのように男性と一緒に暮らすために

    では、背後に起こっていることに不注意な人とは、何がいけないのでしょうか。直接的には聴覚に対する関心が足りないことが問題です。考え事をしていたり、目の前のことに過剰に集中していると、周辺に関する関心が落ちます。

    すると、「頭の後に目がある人」は、常に周辺聴覚にも気を配っている人と言えるでしょう。このような気配りは訓練によって強めることができます。定期的に、たとえば5秒に1度は、意識を背後に向ける、あるいは意識を重要箇所(メータとか、子供とか)に向ける習慣をつければ、ヒューマンエラーを防げるようになります。

    もっとも重要箇所はどこかをあらかじめ知らないといけません。スリーマイル島の原発事故ではこれが問題でした。危機的状況が始まると、警報が乱れ飛ぶことになります。その中で、注目すべき情報、無視しても良い情報、誤報と見なすべき情報(事故中はセンサが狂っていることが多い)を見分けなければいけません。防災訓練では、この段取りを訓練すべきです。

    "仕事の設計"の見込み違いはしばしばありえます。仕事の設計とは人員配置、客の誘導、仕事の分配、伝票伝達の分配などの設計のことです。

    窓口が急激に混雑したり、道路がたちまち渋滞したり、普通の時とちょっと変化しただけで結果が激変する現象があります。このような急変現象に対抗する"仕事の設計"は非常に難しいものです。

    特に典型的な3つのメカニズムを憶えて置いてください。いつか、仕事のやり方を改善する時に役に立つと思います。(本来なら、中学校ぐらいで教えるべき。)

    人間の能力の話ではありませんが、頻出問題なので述べておきます。


    【1】 待ち行列理論

    待ち行列とは、窓口などに並んでいる人の列を言います。食堂での料理待ち、コンピュータのサーバの応答待ち、料金所の順番待ちなど、私たちは毎日のように何かの待ち行列に並んでいるわけです。

    待ち行列理論とは、平均窓口処理速度と平均来店客数との値から、平均して何分待たされるかを推定する算術です。

    (例題1) ある駅の切符販売所は、1分間に平均して6人の客への発券業務をこなせる。また、平日の昼ごろは客は1分間に平均して3人やってくる。客は駅に着いてから切符を手に入れるまで、平均して何秒かかるか?

    (答) 待ち行列理論の公式を使うと、(1/6)/(1-3/6) = 0.333 分 =20 秒

    (例題2) その駅で朝のラッシュ時は、客は1分間に5人来る。すると何秒かかるか?

    (答え)待ち行列理論の公式を使うと、(1/6)/(1-5/6) = 1分 =60 秒

    (例題3) その駅で催し物があり、客は1分間に6人来る。すると何秒かかるか?

    (答え)待ち行列理論の公式を使うと、(1/6)/(1-6/6) = ∞。 これは、こなしきれずに客がどんどん溜まっていく恐れがあることを意味する。能力に余裕のないギリギリの設備は客を長く待たせるものなのです。

    (例題4) その駅で、切符販売機が故障し、処理能力が1分間に平均5人に下がった。客が1分間に平均4人来るとすると、何秒待ちか?

    (答え)待ち行列理論の公式を使うと、(1/5)/(1-4/5) = 1分 =60 秒。 たった1台壊れただけなのに、3倍も待たされる!予測しにくい!


    【2】 電子なだれ現象(ウォーターハンマー,自励振動)

    自然渋滞の発生のメカニズムのことです。電気の現象と同じメカニズムなので、こう呼ばれます。(空の水道管に水流を通すとき、水道管が水に叩かれでカンカン鳴るというウォーターハンマー現象も同じ。一種の間欠泉です。)

    (例) 1車線の道。全ての車は巡航速度で渋滞なく流れている。道の一箇所に登り坂があり、そこにさしかかると自動車の時速はちょっと下がる。すると、後続の車は車間距離を保とうとしてブレーキを少し踏む。その後ろの車は、前の車がブレーキを踏んだので、ますます大きなブレーキをかけて減速する。そのまた後ろの車は、さらに強くブレーキを踏む。中略。最終的には、停車するはめになる車が出現して、渋滞になる。

    対策: 高速道路を走るときは、車間距離を広く持とう!(そうすれば少々のことではブレーキは不要になる。)

    電気なだれ現象は、待ち行列理論と関係深いので、両面から対策を考えてください。


    【3】 無力しい饋還(帰還,フィードバック)

    饋還(フィードバック)とは、結果を見て、やり方の手直しするのことです。結果情報を上流工程に還流させるのでフィードバック(直訳して饋還)といいます。

    饋還は素早いに越したことはなく、情報還流に時間がかかりすぎると失敗します。遅すぎる饋還の例:自動車の運転中に、5秒間目を閉じると、たいてい何かに衝突する。

    饋還はある程度の力を持っていなければいけません。弱すぎる饋還の例:自動車のの運転中に、小指だけでのろのろハンドルを回していると、たいてい何かに衝突する。また、ハンドルと座席の背もたれが遠いと、力が出せず同様の結果になりやすい。

    饋還は強すぎてもいけません。強すぎる饋還の例:自動車のの運転中に、興奮して全力でハンドルを回すと、たいてい何かに衝突する。

    饋還の緩急と強弱の設定は慎重に設計しましょう。


    よく見受けられる問題点とその改善方法

    • 人間の体の形や動きが、機械と合わない場合
      設計ガイドラインを参考にする。
      • 日本建築学会編「建築設計資料集成 人間」、丸善, 2003。
      • 日本規格協会「JISハンドブック2003 安全II」、日本規格協会. 2003.
      • 米軍での設計指針 MIL-STD-1427F.
    • 大同小異のミスが繰り返されている場合
      • 失敗情報の活用が形骸化している。
      • 判断と実行を伴った防災活動を始める。
        海上労働科学研究所編 久宗周二著「海で働く人の改善活動ガイド —船員労働災害分析と対策—」、高文堂出版社、2003.
      • 責任者制度を顧客主体、状況統制主体に組み直す。
        • 事象別の責任者制度の潜在的危険 (「Aを誰がやるか」を問う方式)
          • お見合い。(同位の担当者が複数いると、相手がやるだろうと思って対応しない。)
          • たらい回し。(職掌上の分類にうまく当てはまらないと、他部署に連絡し、応答を待つ。そのうち、うやむや。)
          • 上への集中。(上位責任者に大量の問題報告が回付され、裁ききれない)
        • 顧客主体、状況統制主体 (「誰もがやれるようにするには」を追求)
          • 第一発見者方式: 最初に受け付けた人間が、最後まで見届ける。(コールセンターで、「担当は○○でございました」と名前を言うなど。)
          • 状況統制方式: "ものごと"に情報を集約する。その状況を全員に公開し明示する。(災害時の負傷者トリアージの札。)
          • 手続きの文章化: 職掌上の担当者しか知らない手順の知識を、文章化して公開。
    • ミスの許されないシステムを作らねばならない場合
      • 予行演習を行い、難点を洗い出す。
        • 時間的余裕が足りない → それは精度の問題か?物量の問題か?
        • 精度的余裕が足りない → 治具の使用。下ごしらえ手順の設置。手順の外注化(完成した部品の購入)。増員。要求精度の免除。
        • 物量的余裕が足りない → 余裕物量の準備。増員。要求労働量の免除。
        • ヒヤリハットがあった → まぎらわしさを無くす工夫をする。防護策を多重化する。
      • 予行演習を多く行えない場合は、加速試験(わざと過酷な架空の条件で試験)を行う。(やりすぎると危険ですが。)
        • 想定より厳しい、締め切りや精度を求める。(要求での過負荷)
        • 作業員に他の作業を同時に行わせる。(人間能力への過負荷)
        • 悪天候、悪条件の日にわざわざ訓練する。(実際にやるか、シナリオ上でやる。)

    「ヒューマンエラー」、「ヒューマンファクター」、「事故」などをネット書店で検索すると実に数多くの書籍が見つかります。最近の流行なのでしょうか。それらの本は互いに重複する内容も多いです。市立図書館や書店で下見して、本の独自性を確認する必要があります。(わりと市立図書館にも専門書が取り揃えてあります。)

    また本によって、社員教育向けの訓話、認知心理学の話、事故事例集、事故原因究明本、設計"べからず"集など、役割付けが異なるので、タイトルに惑わされないように。

    最も問題なのは、読んでみたところで具体的な解決策が得られない本が多いことです。JCO臨界事故の"分析"を読んでみたところで、「規則違反が原因」という、自明な結論しか書いてない場合があります。ずばっと切り込んで、工場監察部署は社外取締役直轄にして、経営陣から独立させるべし、ぐらいは書いてもらわないと、無駄な読書になります。(理工学書のコーナーへ行って研究書籍を見るより、経営書を読む方がましなことがしばしば。)

    1. ゴース,ワインバーグ「ライトついてますか? —問題発見の人間学」、共立出版。
      人間の組織の問題を考える時、これだけは読んでおきましょう。
      「問題が存在するという事実」、「立場による問題の受け取り方」、「問題の解法の適正度」、「問題の発生源」、「問題の解決必要性」をごっちゃにして考えてはいけない。
    2. R. P. ファインマン、「困ります、ファインマンさん」、岩波現代文庫。
       この本の第3部に「ファインマン氏、ワシントンに行く —チャレンジャー号爆発事故調査のいきさつ— (Mr. Feynman goes to Washinton)」があります。大統領事故調査委員会の委員としてスペースシャトルの爆発事故を調査した際の、簡潔にして詳細な記録になっています。
       NASAなので、説明員はワイブル分布 (Weibull Distribution, 故障確率の計算に用いる)などを使って"理論的"に説明しようとするが、「エンジンの故障でロケット打ち上げが失敗する確率は 0 にならざるを得ない」と言われて唖然。
       「"ならざるを得ない"とは必然ですか?命令ですか?確率はゼロですか?」
       「しいて言えば 0.00001 だ」
       「それでは毎日ロケットを打ち上げても、300年に1回しか事故は起きないことになりますね・・・」
       部品の"平均故障時間間隔"を使って算定した、事故確率という謎の数字が一人歩きすることがしばしば。 「毎日やっても事故は数百年に一度」と言いなおすと、化けの皮がはがれます。 ファインマンが特別にねじ込んだ独立報告書 "Appendix F - Personal observations on the reliability of the Shuttle" の冒頭にこの件が持ってきてあります。
    3. ケラーマン、ヴアン・ウエリー、ウイレムス編、(小林和孝訳)、「人間工学の指針 — 技術者のためのマニュアル —」、日本出版サービス。
      こちらはフィリップス社の工場での作業員への配慮を列挙した本。
      事例を徹底的に列挙してあります。ボタンはこう作れ、計器盤はこうデザインせよ、暑さ寒さ、照明、人間の力の限界は・・・、と大抵のことは書いてあります。
      多数の例示図を主体として話を進めるのでわかりやすいです。文章で長々と説明しない点が偉い。
    4. 大野耐一、「トヨタ生産方式 —脱規模の経営を目指して—」、ダイヤモンド社。
       トヨタ生産方式はあまりに有名ですが、原典であるこの本を読んで見みると、ヒューマンエラーの抑止、エラーからの回復、ヒト・モノ・情報の円滑な流れの実現が、具体的に書かれてあります。仕事の全体設計を考える人向け。
       仕事の現場の実際家には、この4冊があれば、充分です。
       
       以下の書籍は、ヒューマンエラーや事故を専門的に研究したい人と、ヒューマンインタフェースの設計者とに役に立つ本です。
       
    5. 畑村洋太郎編著「続々実際の設計 失敗に学ぶ」、日刊工業新聞社, 1996。
      設計ミスから操作者のエラーまで、膨大な事例を列挙して分析を加えている。"失敗学"の理論的な考察も含む。
    6. ドナルド・A. ノーマン著、「誰のためのデザイン?―認知科学者のデザイン原論」、新曜社認知科学選書、1988.
      認知科学をユーザビリティに適用した金字塔。人間を単純に捉えることを否定し、ユーザの高次の知能を前提として使いやすさを考える。本書を読めば複雑な問題があることは分かるが、解決策が見つからないことも多い。このためノーマンは現在、機械から感じる印象や感情などの研究に転向してしまったようである。
    7. 日本建築学会編「建築設計資料集成 人間」、丸善, 2003。
      人間の身体寸法から、認知能力、群衆行動まで広く浅くカバーしている。グラフや写真が主体なので、概説を求めるときに重宝する。私の本棚あったこの本を見て、2人の同僚が自分で買いなおしたほどの重宝ぶり。
    8. スタンリー・スチュワート「緊急事態発生!機長の英断」講談社 + α文庫, 2000.
      パイロットによる事故生還事例分析。航空の事情や用語がよく分かる。各社の文庫にはヒューマンエラー関連の著作が多数ある。なまじ工学の書架に行くよりも文庫コーナーを探したほうが良書に出会える。
    9. 海難審判庁:「海難分析集」各年度版あり。Webで全文を見ることが出来る(偉い!)。ただ、事故原因は毎年マンネリ気味である。割と凡ミスが多いので、人が犯す凡ミスの実例を知りたい時には読むと良い。
    10. 日本規格協会「JISハンドブック2003 安全II」、日本規格協会. 2003.
      コンピュータの画面メニューなどに関する勧告(ISO 9241-14, JIS Z 8524)などを掲載。
    11. 森・井上・松井「グラフィック 認知心理学」、サイエンス社、1995。
       エラー、記憶、意思決定などについて、認知心理学の主要学説が解説されている教科書。
    12. 池田良夫(編著),「産業人間工学」, 放送大学教材, 2000.
      正統的な教科書。

    ハインリッヒの法則とは「1つの大事故が起こったなら、その周辺には29件の中事故、その背後には300件の小事故が起こっている」という経験則。 (Heinrich, HW. 1931. Industrial Accident Prevention. New York: McGraw-Hill.)

    FTA. Fault Tree Analysis. ひとつの故障についての原因の総列挙。

    ETA. Event Tree Analysis. ひとつのきっかけから起こりえる事態の総列挙。

    FMEA. Failure Mode and Effects Analysis, 故障モード影響解析。
     システムの起こしえる様々な故障の様態(故障モード)を列挙し、それぞれの深刻度を評価する手法。深刻度は Risk Priority Numbers (RPN) と呼ぶ。各故障モードのRPNは、故障影響度、発生確率、事前予知困難度などの積として計算する。
     FMEAの目的は、考え漏らしのないように故障モードを列挙することと、深刻な潜在的危険を警告することにある。
     人間のエラーの場合は、全く想定外の事故モードがあること、人間の権限による事故実行は影響が大きいなどの難点があるものの、よく使われる。
     想定外の事故モードを計算に入れるためには、実地の試運転や、稼動開始後の業務改善体制が必要になろう。

    Rasmussen はしごモデル:スキルレベル、ルールレベル、知識レベル。GEMSモデル。

    GOMSモデル。

    Model Human Processor, Air MIDAS (Man-Machine Integration, Design, and Analysis System), ACT-R, SOAR, SRK model (Skill, Rule, and Knowledge), THERP (Technique for Human Error Rate Predication), GOMS (Goals, Operators, Methods, and Selection Rule).

    HPES評価法。J-HPES

    VTA (Variatoin Tree Analysis)

    Hollnagel。能力資源モデル。混乱までの余裕。

    Reason。エラーの分類。スリップ(不注意)、ラスプ(忘れ)、ミステイク(失策)、違反(自覚的自発的な行為ゆえエラーに含めず)。

    米国輸送安全委員会 National Transportation Safety Board (NTSB): 勧告と事故データベース

    Event Tree Analysis (ETA) と Fault Tree Analysis (FTA) の分析法。


    よくある質問(FAQ)の大きな女性はベッドの中で優れている
    • ETA の思考手順 (蟻の一穴から大事故への波及があるか?)
      1. まず、小さな不良現象・ミスを思い浮かべる。
      2. その不良現象が引き起こしかねない、不良現象を考えつくす。(不良現象の親子関係)。
      3. 考え付いた不良現象を親にして、2に戻る。
      4. 子、孫、曾孫と波及効果を考えていく中で、回復不能な不良現象(=事故)が出てくるか?
      5. 事故を防ぐには、どの段階で波及効果を遮断するのが適当だろうか?
    • FTAの思考手順 (大事故の発端は何か?)
      1. 事故現象を思い浮かべる。 起こってしまった事故や、防ぎたい事故など。
      2. その現象が発生するのに必要な要件を考えつくす。(子から親を考える。)
      3. 考え付いた要件を子にして、2に戻る。
      4. 充分考えつくせば、事故が起きる要件を列挙できたことになる。そこで次の"想定範囲設定"で答申をまとめる。
      5. 部品が信頼できるという想定範囲: 部品が設計仕様の通りに製造されていたら、どこまで遡れるか?
      6. 人員全員が規則を守るという想定範囲: 自発的行動・対応的行動・作業の質・作業の早さなどが、設定された規則に従って行われるとしたら、事故は起こるか?
      7. その他、例えば悪環境条件の想定範囲: 夜間、停電、断水、火災時、冬のシベリヤ、サハラ砂漠など、過酷な環境では事故は起きやすくなるか?
      8. 実際との突合せ: 現実の事故率を、FTAの結果で説明してみる。作業員の読み取りまちがい確率=3%、圧力制御器の精度=1%などと、数値を入れてみよう。それらの数値のアンドやオアを演算していけば、最終事故率が見積もられる。それは現実の値とどの程度合致するか?

    記譜並べ。思考時間。

    編年体vs.紀伝体。生記録 vs. 解釈的記録。

    記録する際に、時間軸は伸縮させてはいけない。出来事が何も無い時間であっても、時間表には空白として残す。

    読者への配慮。次のことを先に書くこと。

    • 対応体制: 対応責任者は誰か? 事故抑止の任にある現場の人は誰か?
    • 緊急度:すぐ対策するべきか? 放置のリスク。
    • レベルごとの解決策(上策、中策、下策):各解決策の完備度と、そのコスト。マイマネー主義(自腹で対策するなら、どこまで、どう費やすか。自分が社長であると仮想して考える。金に糸目をつけなければ、そりゃぁなんとかなります、という答案では不十分。採用可能性のある上策を磨く。)
    • 外部の助け: 買えばいい製品、まねすればいい制度、改良の外注。

    対応責任者は一人であるべき。部署や委員会など人間集団の対応責任は、責任が分散され、極めて危険かつ非効率である。

    (1) 優れた設計はヒューマンエラーを減らします。ではその逆は何でしょうか?
     人の手が加えられていないものは、それほどヒューマンエラーを誘発させません。天然物は構造が単純ですし、使う人もそれなりに用心して使います。
     エラーを最も誘発するデザイン、それは廃墟です。廃墟といっても古代遺跡ではなく、最近まで使用されていた廃屋など、構造と機能がなまじ残っているものです。
     人工物は、「こう使ってください」というメッセージをユーザに発しています。つまり人工物から意味を受け取るわけです。
     廃墟はそのメッセージがなまじ残っています。その一方で、危険な状態が大増殖しています。
     腐った床を踏み抜いて何メートルも自由落下。部屋に入るときは開けられたドアが、部屋か� ��出るときはノブが壊れて開かず、そのまま監禁。
     「床だよ〜」、「ドアだよ〜」という意味をまなじ信じるからこそ、危険に易々とはまり込むわけです。
     さて、「廃墟は極端だ。普通の工業製品には関係ない」と思う向きもあるでしょう。
     ところがそうではありません。廃墟とは、人手が加えられず放置された人工物。最初は立派な人工物ででした。保守点検をしない、管理者が曖昧のまま使い続ける、環境の変化に応じて更新しないなど、よくある怠慢が続くと、普通の工業製品、システム、制度も廃墟と化します。
     ヒューマンエラーを考える人は、「軍艦島」の写真を見て、一考すべきでしょう。

    (2) 優れた設計はヒューマンエラーを減らします。ではその究極形態は何でしょうか?
     素人でも、操作をまちがえず楽にでき、玄人の求める細かい注文にも応える、そんなヒューマンインタフェースを持った装置。素人向けと玄人向けの二律背反を克服した、そんな都合のいいものがあるのでしょうか。
     ここではその例として、メディアアートを挙げたいと思います。メディアアートといっても、テレビゲームなどを思い浮かべてください。
     子供向けを前提にしたテレビゲームでは、当然ながら、ユーザへの情報提示と操作方法は、簡単で直感的でなければなりません。
     かといって、あまりに単純なゲームは、楽しくありません。複雑な操作や、訓練を要する操作が無いと物足りないです。
     さらには、ア� �ションゲームでは、操作すること自体が楽しみの本体になっています。
     傑作ゲームは、ヒューマンインタフェースに関しても傑作である傾向があります。
     もっとも「ドラゴンクエスト」の「復活の呪文」のように、ヒューマンエラー頻発のものもありましたが。
     ゲームの良さのひとつとして「操作の爽快感」といわれますが、これは何でしょうか。

    1. ユーザの意図と結果との連関追随性: 自分の思い通りに、自分の操作の結果が、すぐに反映される。何をどうすればベターから分かりやすいので練習の余地がある。
    2. スピード感・空間感覚の刺激: アクションゲームのように、すばやい速度や空間移動を感じさせる。
    3. 作業フェーズの簡明さ: 今は何をする段階かが、わかりやすい。取り消せる範囲も把握しやすい。
    4. 操作効率: 操作が簡明で、冗長でない。入力の単純化傾向。
    5. 操作多様性: いろいろなことができる。ジョークコマンドがある。入力の多様化傾向。

    航空機事故と免責(ASRS報告制度、航空安全報告制度)。1974年のワシントン・ダレス空港着陸時の山頂墜落事故がきっかけ。この事故の直前に、他の航空会社の飛行機で全く同様のヒヤリハットがあった。すぐに、その社内ではヒヤリハット情報が周知された。しかし、会社の違いを超えて、ヒヤリハット情報が伝達されることがなく、大事故にいたる。この反省に立ち、社の違いを超えてヒヤリハット情報を連絡し共有すること、ヒヤリハット情報の公開を促すため報告者の責任を免ずることが制度化された。

    公益通報者保護法(2006年4月より施行)。内部通報制度と、外部への"内部告発"。

    設計ミスが裁判になるとき。設計図だけでは裁判が怖い。何をどう考えたかは、最終図面から読み取りにくい。

    例:硬貨投入口の縦型と横型、なぜ2種類がある理由は、図面だけでは読み取れない。

    例:スペースシャトル。フランジ面へのシールという禁じ手はなぜ放置されたか。

    設計図だけでは、設計のいきさつが読み取れない。どう伝承させるか。スミソニアン博物館。動態保存。

    • 現物残存
      • 動態保存
      • 静態保存
      • 残骸残存
    • 媒体記録 : 記録者が伝えようとしている特徴に関するデータだけしか保存されない。
      • 視覚情報: 動画・静止画
      • 聴覚情報
      • 文章・言語情報
      • シミュレータとしての記録。ヴァーチャルな機械として残す。

    どんなものが現物残存するか?

    • ピラミッド。唯一現存する世界の七不思議。七不思議の中で最難度のものだけが、残存する。
    • 志免炭鉱竪坑櫓。頑丈で壊せないもの。
    • 音楽レコード。DJのため復活。メカニズムがわかりやすいもの。独自の人間の関与を許すもの。
    • 廃墟・遺構。廃棄することの利益がないもの。えてして危険物になる。人工物としての意味が変質してしまう。
    • 節税のため廃棄されるコンセプトカー。けちりすぎではないか。

    戦時規格、安普請、主機能優先

    民生移行:コメート機

    Bf109 と Spitfire の引き込み脚の違いと、その設計思想。

    試運転

    防災訓練

    シミュレーター

    一般モニターでの試運転

    誤植と一本活字

    デジタル・ヒューマン・シミュレーション(リアプノフ指数)

    典型的な報道経過:

    • 「○○で事故 ○○部分に故障?」
      • 爆発事故推測の傾向: なぜか大事故・大事件の第一報は、伝言ゲームで"爆発事故"にされてしまう。地下鉄サリン事件(1995年)「築地駅で爆発」、中目黒駅日比谷線脱線事故(2000年)「中目黒駅で爆発」、尼崎福知山線脱線事故(2005年)「福知山線列車で爆発」。
    • 「その瞬間 乗客の声」
    • 「○○事故 作業員の○○ミスが原因か?」(次の日)
    • 「安全神話 ○○ミスのチェック体制なし」(次の日)
    • 「頻発していた○○ミス」(次の日)
    • 「トラブル事情 事前に公表せず」(次の日)
    • 「○○省 新安全基準策定へ」(次の日)
    • 「報道されなかった真相」(数週間後から数ヵ月後)
    • 少数派特徴への原因付与。当事者(特に専門職)に女性がいると、「女性管制官」、「女医」、「○○士の女性」と表現されます。

    事故報道はどうあるべきか?

    • 着手の量より、理念の全うが問題。
    • 各報道機関が独立的に行うことに意味がある。
    • 報道の目的は、3つの段階によって異なる。
      • 対応喚起段階(初期報道、速報): 公けに知らせること。不祥事隠蔽を咎める。
      • 再発予防段階(同種の事故の他社・他業界での再発防止): 事実の整理と分析
      • 紛争処理段階(被害者救済、責任処理問題): 紛争当事者間の意思疎通。処理の正当性の検証。
    • 対応喚起段階
      • 被害の威力源(熱、圧力、毒など)を明らかにする。その威力源は拡大中か。
      • 人的被害は把握され制御できているか。大抵の事故では、人的被害以外は急激な悪化を心配する必要が薄い。人間は価値が高く、かつ変化が速い特殊な存在である。
      • 事故原因の予断は避ける。野次馬にならない。威力源と事故原因を混同しないこと。
    • 再発予防段階
      • 公正中立性: 「Aかもしれないし、ないかもしれない」という段階に煮詰まるまでは、推理的な分析をしない。対立仮説を持ちながら報道すると、本仮説の考え漏れが少ない。
      • 事故の直接的原因と、事故を生む土壌(遠因)とを、分離して考える。二兎がいることを意識。
      • 直接原因は、よく調査しても、結局は断定できないことが多い。
      • 「原因解明→対策整備→操業再開」の図式を作りたいという暗黙の期待に警戒する。
      • 迷宮入りの場合、あれがあれば迷宮入りしなかったと考えることに予防の意味がある。
      • 遠因は、必ずしも退嬰的な企業風土であるとは限らない。意外なものかもしれない。事故の発展過程は、倫理性とは別個の問題である。
      • 被害の量を再考する。幸運だったのか、不運だったのか。
      • 隠れる情報: 当事者発表に漏れた痕跡、傍観的な立場でひっそり計測していた装置の記録、返品率、労災件数、利益率。証拠の確度は高いが、目立たない。
    • 紛争処理段階
      • 本質は紛争処理である。
      • 停滞させない。紛争処理時間の短縮は重要使命の一つである。
      • 事後処理を当事者間で進められるように、互いの見解の意思疎通を支援するように報道する。
      • 被害者: 事故の観測者であり、救済の対象者。
      • 現場作業者: 事故の実行者であり、事故の観測者であり、一次責任者。
      • 事業者: 管理責任者。一次情報源ではないことも。
    「企業の危機管理」とよく言われますが、実際に効果があるのでしょうか。そもそも危機管理の目的は何なのでしょうか。上手な記者会見をすれば事故の賠償額が大きく減る、ということはありえません。テクニックに頼っても結果に大差はなく、なまじ頼る方が危険かもしれません。

    事故対応の難しさは、平常時では有利な方法が、非常時には最悪の結果を招くことにあります。

    平時の対応方法は防御的です。それは情報の統制が特徴です。

    ごく小さな事故が起きると、上長から「これは不祥事だから他言無用だよ」と一応の箝口令が出されることがよくあります。ありふれたことですが、「不祥事を隠すことが、組織にとっても、個人にとっても、自分の属する部局・班にとっても、最善である」と暗に思い込むようになります。事故を"不具合"などの婉曲表現や隠語で語るようになります。

    そのような組織が大事故に直面すると、公開情報の齟齬から、情報隠蔽体質が露呈し、激しい非難を受けます。それは、事故によるダメージ以上に、組織の存立を危うくします。

    通常のクレーム処理の手法を、重大な事故対応に流用することも危険です。客のクレームを待って対応する姿勢では不誠実な印象を与える恐れがあります。異常事態に対しては、前例踏襲型の解決、「相場な解決」を目指すことも困難です。ただ、クレーム処理部局以外に人員がいないことも多く、しばしば大事故の対応でこうした失敗が見られます。

    では最善の対策は何でしょうか。それは普段からの組織運営にあるでしょう。非常時対応といっても、所詮は普段の体質の延長にしかありえません。

    情報隠蔽がしにくい組織作りが望ましいです。例えば、人材の(社内外)流動を奨励したり、工場の顧客への一般公開を主要業務として取り組むなどが考えられます。 「はてな」の人力検索システムを社内に導入して、各自の質問を部署横断的に解決するという手は、なかなか賢い方法です。単なる風通しの良さ以上の、企業の技術力向上の効果が期待できます。

    宋人有嫁子者 (劉安『淮南子』より)

    ある嫁は、実父から「離婚に備えて、家計からくすねてヘソクリしておけ」と言いつけられ、こっそり蓄財をした。これが発覚して離縁された。実父は「計画通り役に立ったわい」と得意げであった。防御策も行き過ぎると、破滅の主因となる。

    ある日突然、大事故の責任者や被害者や遺族になったら何が起こるか?

    詳しく書いてある本としては、野田正彰『喪の途上にて 大事故遺族の悲哀の研究』、岩波書店、1992年。
    悲哀の受け入れに掛かる時間より、事故の事務処理のテンポが速い。事故の記憶の風化がつらい。刑事裁判にせよ、民事裁判にせよ、担当者の量刑と賠償金の決定が主題であって、遺族の意思の反映(事故防止策の徹底など経営的で行政的な内容)や、心情の整理につながらないことがある。民事裁判の目的が、もっぱら賠償金の額の決定となること(心身被害の現金化)に被害者は違和感を感じ、原告弁護人にも信頼を寄せられなくなることがある。裁判以外の情緒的な交渉は難しい。


    「四枚カード問題」の現象からわかるように、人間によって問題の"難しさ"とは、問題の具体性によって大きく左右されます。問題の論理学的な構造は、難易度と結びつかないことがしばしばあるのです。

    この現象を教育方法に応用することができます。問題をうまく身近な事柄にたとえれば、ムズカシイと思われている問題であっても、誰でも正解できることになります。

    問題解決能力を育てる教育は、特定の問題をうまくたとえて教える、さらには生徒が自分でうまいたとえを見つけ出すように支援することを主目的とするべきでしょう。

    ところが実際の教育では、このような教育法はなかなか使われていないようです。


    問題: 105 – 7 = ?

    手続き主義的な教え方
    「引かれる数の一の位が、引く数より小さい。そこで十の位から 10 を借りることにする。十の位は 0 なので、百の位から 90 と 10 を借りる。 90 はそのまま残す。 10 は一の位の 5 と足して 15 にする。そして 15 – 7 を計算して、一の位は 8 だとわかった。残しておいた 90 と足して、答えは 98。」
    難しいことを避けるやり方
    「ぱっと見、簡単には引き算できない。とりあえず簡単な範囲だけを済ます。一の位の 5 を清算してみよう。すると問題は
    100 – 2 = ?
    となる。ここまで来れば後は簡単。100 より 2 小さいのは 98。だから答えは 98。」
    電卓の動作方法
    「1000 を法とする。 7 の補数は 993 である。 105 に 993 を足して 1098。法の 1000 を除去して 98 が答え。」

    ふつうの学校教育では"手続き主義的な教え方"で教えます。手続き主義は一貫しているので、どんな計算でも通用します。ただ、手続きを完全に暗記し、さらに作業の途中で、どこまで手順が進んでいるのか、忘れないように努力しなければいけません。

    "算数が不得意"と判定される生徒は、暗記や手順管理が不十分だっただけで、実際に算数の才能が無いわけではありません。まぁ、悪い点のテストを恥を忍んで家に持ち帰ると、算数は嫌いになるでしょうが。

    "難しいことを避けるやり方"は、誤解しやすい作業は後回しにする方法です。この方法を発見できれば、簡単で速く正確に答えが出せます。ただ、いつでも方法が発見できるか不確実です。

    電卓の動作方法は、みなさん理解できたでしょうか。電卓は「引き算を全廃する」という革命的発想で作られています。みなさんが電卓に引き算をさせているつもりでも、電卓が実際にやっていることは、"補数の足し算と、その前後のちょっとした手間"の作業です。純粋な意味の引き算をする電卓はありません。足し算だけで済むなら、引き算のための回路を作る必要が無いからです。

    学校で引き算を教えるときに、電卓の方法を教えないのはなぜでしょう?ふつうの手続き主義による方法より、手間が少なく、足し算を知っていれば使え、どんな引き算でも使用可能です。けれども、「作業の意味が全然わからない」という致命的な欠点があります。たとえ、電卓法を生徒が習熟しても、それは変な方法を暗記をしただけで、数学的な理解を深めたとは言えないわけです。

    であるならば、手続き主義も同じくダメな方法になる恐れがあります。"隣の位から借りる"という作業は、"補数を足す"よりは、具体的でわかりやすい。しかし、"隣のそのまた隣の位から借りて・・・"となってくると、わけが解らなくなります。

    こうして、算数が苦手という生徒が出現すると、私は考えています。

    人間の理解の段階 (マックス・ヴェーバー『社会学の根本概念』より)
    要素的理解 説明的理解
    意味 問題文や登場するものごとの意味が、(個別的であるが)分かる(だけ)。 ものごと同士の関係、問題が生じた文脈、動機、登場していないものとの関係などを、説明したり推測できる。
    長短 少ない訓練でできる。法律のようなものであり、解釈のぶれが少ない。実際の作業では、細かい規則の羅列となって、効率が悪く、まちがえやすくなることが多い。 訓練を要する。一旦、説明的理解してしまえば、頭の中でイメージが浮かぶので、要領よく考えることができ、まちがえにくい。
    適用先 作業員を速成したい場合。入門体験版として。説明的理解がやりにく場合。 教育法としては、全般的にこちらの方が優れている。
    算数の理解 手順を覚える。計算ミスをしないように慣れるまで訓練をする。 文章問題のように、数字を具体的な数量にたとえて考える。たとえ方が正しくなるように慣れるまで訓練する。
    かけ算の理解 「たてがA列でよこがB列なら、全体はA×B個」という、表面的意味を理解する。九九を覚える。桁の大きいかけ算の筆算の手順を覚える。 かけ算の登場する現象の共通性を、絵を描いて、理解する。「時速A kmでB時間走るとA×B km移動する」と、「A個実のなる木をB本植えると収穫はA×B個」の絵を描く。
    分数の割り算の理解 手順で覚える。割る数の分数の分子と分母を入れ替えてかけ算する。あるいは、小数にして、計算をやり通す。 意味をたとえてみる。A個をB人で分けるのより、C個をD人で分ける方が、(A÷B)÷(C÷D)倍多い。すると、AとCの比率が変わると結果はどうなるか。BとDの比率を変えると、どうなるか、いろいろイメージで実験してみる。
    囲碁のルールの理解 囲碁を王銘エン九段の「純碁」で教える。少ないルールを憶えるだけでスタートできる。例外がない。(囲碁は発明が古すぎて、元々の要素的理解が忘れられていた珍しい例。) 囲碁を普通の囲碁のルールで教える。終局問題などの例外を別途教える必要がある。
    脳での担当部署 論理担当の部署。一歩一歩、論理を進める。 イメージと予想の部署。一気に「これはこうなるな」と推測する。

    要素的理解の方がよいか、説明的理解の方がよいかは、場合によります。それぞれ一長一短があります。また、説明的理解は、うまいたとえを考案しなければ選ぶことができません。

    1. あることがらを教える方法は、要素的理解からはじまる。
    2. 要素的理解では、手間が多く、脳に作業的負担がかかる。また、脳のクセである直感論理学は欠陥だらけであるので(「四枚カード問題」)、手順の長い要素的理解では、まちがえやすい。
    3. 要領よく考える方法(説明的理解)が発明されると、そちらが多用される。
    4. 使われなくなった要素的理解が忘れられていく。
    5. 説明的理解では不都合な例外や、説明的理解についていけない生徒が出現する。
    6. 要素的理解を再発見し、原理から立ち戻って、教育法を考え直す。

    Max Weber の「社会学の根本概念」のはしがきに、
    「『理解』とは何かということについては、カール・ヤスパース(Karl Jaspers) の『精神病理学原論』を読みなさい」
    と、わざわざ書いてあります。ヤスパースは、どのように考えていたのでしょうか?

    理解のはかり方 内容 従来の学校の試験では
    認識試験 ある物を見せ、それが何であるか答える 初歩
    連想試験 ある物を見せ、それから連想するものを答える あまりやらない
    暗記試験 見せられた物を暗記する 頻発
    供述試験 一度、見せられた物の様子について、まず自分で大雑把に説明し、次に細かい質問にも答える あまりやらない
    作業試験 言われたことにしたがって、計算作業や思考作業を成功させる 頻発

    連想試験や供述試験は、答えの白黒がつきにくいので、あまりテストでは出されません。しかし、理解状況を知る上では、本来、優れた測定法なのです。採用面接や訓練などで、作業員の理解度を把握しする良い方法になります。

    理解への障害の原因となるもの 何が起こっているか 対策
    知識・経験の不足 情報を、自分の知識のどこに組み入れ、どのように取り扱えばよいのかわからない。「どこが分からないのかが、分からない」 解き方をやってみせる。まねさせる。
    記憶力の不足 すぐ忘れてしまうので、長い推論ができない。 途中の計算結果や思考結果を、紙に書きとめながら解く
    混濁系の精神状態 個々の情報は理解できるが、全体を理解するまで精神集中が続かない。 表や絵を使って考える。全体地図を常に意識させる。
    躁系の精神状態 関心が急速に移ろうので、理解が終了するまで精神集中が続かない。 落ち着かせる。問題文を単純化する。
    鬱系の精神状態 理解の脳活動そのものが抑制される。 興味を引く題材を使った問題を出す。

    「成績が悪い」⇒「勉強しろ」⇒「予習や復習をして、ドリルを繰り返しこなせ」と、よく言われます。それは、暗記の定着には効果があっても、理解できる道筋の発展につながるものでしょうか。理解が進まない原因を、上の表のようにじっくり考えてみる必要があります。

    手続き主義の解法は、練習を積まないと、まちがえやすいものです。要は慣れの問題です。問題集にはやたらと同工異曲の計算問題が載っていますが、練習して手続き主義の難点を克服しようという発想なのでしょう。さらには計算の速さを重視する教育も見受けられます。

    だったら電卓みたいに補数を使えば、最も速く、まちがえにくいと思うのですが・・・。足し算のみなので、数を借りる手間が省けて、速い、と考えてこそ手続き主義ではないでしょうか。

    かつては、コンピュータが無く、計算は人手でやっていました。計算を素早く正確にできる人を会社員に採用する必要があったわけです。しかし今はそうではありません。計算が遅くてまちがえても、計算作業のイメージを確実に把握している人、数学的センスのある人が、むしろ求められている人材といえましょう。

    数学者カール・フリードリッヒ・ガウスが小学生の時の話です。先生が「1 + 2 + 3 + (中略) + 99 + 100」の計算をしなさいと言いました。ガウスは即座に5050と答えました。正解です。正確に足し算をする訓練をするより、この数式の意味をイメージして、何が起きているのか考えることが、結局は圧倒的に速く正確な答えを出せるのです。

    問題には"難易度"というものがあると思われています。

    教育現場で、"やさしい"問題から始めて、だんだん"難しい"問題を解かせるというカリキュラム作りが採用されます。

    しかし「四枚カード問題」で見たように、難易度は問題のイメージのしやすさが大きく支配していると言えます。問題自体の"難しさ"より、問題文の具体性の差や、生徒のイメージする経験がものを言うでしょう。

    難しい問題の方がなぜか具体的な文章題で"応用問題"と称されています。あべこべです。具体的な問題の方が圧倒的にやさしいはずです。それをざわざわ手続き主義の反復訓練のために、無味乾燥な"やさしい"問題から解かせて、生徒を混乱させているとしか、私には思えません。

    このような理系カリキュラムが露骨に破綻しているのが、高校の物理です。

    難関大学を受験する生徒が勉強するいわゆる受験物理では、物理学の始祖のニュートンやライプニッツの言ったとおりの微分方程式を使って問題を解くように指導されます。高校の範囲外ですが、この方法を用いないと難関大学の問題は事実上解けません。予備校で作成する模範解答もこの方法です。暗黙の了解、公然の秘密です。

    高校で教えられる物理学は、微分方程式を使ってはいけないので、代わりに"公式"を使います。公式とその利用の手続きを延々と教えられます。内容より手続きの暗記が重視されます。微分方程式は禁句なので、内容の説明は不可能です。

    建前上、難関大学の問題も、これら"公式"を使って解ける範囲ではあるのですが、奇奇怪怪な論理になります。むしろ、この方法が使いこなせる人は、一種の天才です。ただし物理学の才能は保証できませんが。

    そもそも人間はどのくらい頭がいいのか、人によって頭のよさはどれくらいばらつくのか、について考えてみましょう。

    結論から言えば、「人間は全員、個人差や年齢差は問題にならないくらい、とてつもなく頭がいい」といえます。さらには、多くの動物も頭がいいのです。

    特に人工知能学者やロボット工学者はそう思うのです。「四枚カード問題」の現象はこの考えの根拠の一つです。他にも、万人が備える、とびぬけた頭のよさを示す証拠はいくらでもあります。

    例を挙げます。身の回りを見てください。パソコンがあって、コーヒーカップがあって、机があって、机の一部に汚れあって、紙があって、そこには明朝体で書かれた文章があって、壁があって、壁は青で、壁の幅は3メートルで、云々。

    何とはなしに、周辺の状況を認識できると思います。簡単な作業です。特に脳内で複雑で大量の演算したとは思えません。

    では、カメラを持ったコンピュータやロボットが、人間と同じように映像を認識できるのでしょうか。人間にとってはすごく簡単な課題でしたから、ロボットでもできそうです。実際、ミンスキーというMITの計算機科学者は昔、簡単だから学生の夏休みの宿題として出したという逸話があります。

    現在までのところ、この課題つまり、自分の身の回りに見えているものが何か、そのものの特徴は何かを認識するプログラムは、コンピュータにはできていません。むしろ製作不可能とみなされています。かろうじて、特定の物体しか登場しない部屋の中など、認識の範囲を限定すればプログラムでも可能です。しかし、そのプログラムが、砂漠でも、南極でも、渋谷でも、胃カメラでも、人間並みに認識するようになるには、当面、不可能でしょう。

    ハードウエアの面だけでも実現困難で、計算量と記憶装置の量を考えると、巨大な計算機とメモリが必要になると思われます。ましてやソフトウエアをどうやって作ればいいのかわかりません。

    動物も頭がいいです。今、窓の外の水溜りで、スズメの群れが水浴びをしています。彼らは、適当な深さであって、周りに敵がいない水溜りを認識できるのです。スズメは、エサであるものを認識します。仲間を認識して群れます。巣を、適当な場所に、組み立てることもできます。

    こんなに多様な作業をするための視覚能力は、前述のようにロボットには未だ不可能です。スズメの脳は小さいので、スーパーコンピュータなら量的には対抗できるようになると思われます。ただ、ソフトウエアの作り方は相変わらず難問です。巣作りの方法など絶望的に難しい。

    このように、動物やより複雑な人間は、そもそもとてつもなく頭がいいと言えます。朝起きて、夜寝るまでにこなす作業は、論理学的・人工知能学的には途方も無く難解で演算不可能な問題ばかりです。それを苦も無く解けるのは、異常なまでの頭のよさです。誰でもこなしているのですから、頭のよさの個人差など議論している場合ではありません。

    この超絶的能力をうまく学校の勉強に適用できれば、誰でも"頭のいい子"に育てられるはずです。ただ、次に述べるように、この方法は手間がかかるのです。

    プラトン著の『メノン』という書物は、教育学の元祖ともいうべき古典です。その中でこんな話が出てきます。

    ソクラテス先生「辺の長さが1の正方形がある。その面積はいくらか?」
    生徒「1×1で1です」
    先生「では辺の長さを2倍にすると、面積はいくらになるか?」
    生徒「面積も2倍になります」

    これはまちがいです。ソクラテスは面積が2倍にはならないことを、生徒に確認させます。

    ソクラテスはこう考えます。最初から、正解である「面積は4倍になる」ことを"教えて"も、それは教育にはならない。天下りで伝達された知識を理解することは不可能である。人間が"知る"ことができるのは、自分の内側から"知った"時だけである。自分で"これは変だぞ"と思わない限り、本当の知識を獲得する機会はない。天下りではお題目を暗記するだけである。

    古代ギリシャで既にこのような教育法が、有名学者のソクラテス先生によって提唱されていました。それにも関わらず、現在の学校教育にて、"効率的"と思われている知識伝達型の教授法が幅を利かせているのは、歴史の皮肉です。


    エラーや試行錯誤で問題の本質に気付かせる教育は、深い理解が得られるものの、なんとも効率が悪く、時間もかかります。気付かせる方法は、一定ではなく、題材や生徒に応じて変わるものも難点です。

    このような手間のかかる方法は、例えばアルバイトの従業員に機械の操作方法を教えるなどには適しません。人材教育の時間が高くつきます。この場合は、暗記と反復練習で、早くやり方を習得すればそれでよいのです。

    かといって、人の健康に関わる重要な作業を行う機械を、アルバイト作業員が操作する場合も、通り一遍の研修だけで済ますのは危険です。事故に備えた訓練が必要になります。

    出だしが速いのスタートダッシュ型をとるか、始めはもたつくが遠距離のカリキュラムについていける試行錯誤型をとるかという選択を、安易に行ってはいけません。

    近代化を急速に進めた国々では、スタートダッシュ型が好まれる傾向にあるようです。

    巷では、「○○教育法」というものがいろいろ提案されています。

    しばしば、これらの方法の性能を評価する際に、スタートダッシュ的な、短期での成績向上にのみ注目することがあります。また、学校でのテストも、タイムトライアル的な問題が多く、反復的な訓練を重視する、いわば偏見がかかった"テスト"になっています。

    しかし、遠距離競争の観点も当然考えるべきです。年齢が高くなってからの成績が、低学年での成績より、はるかに重要になります。

    出だしで成績上位だった生徒が、その後、上位を維持できるか、追跡調査してみるべきでしょう。上位陣だった生徒が、後から下位に転じるような教育方法は、スタートダッシュだけで、性能に問題ありです。

    以上



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